2013/08/02

社会的責任に関する報告書(1) IIRCとGRI

どのような情報開示が
求められているのか
現在私は社会的責任投資の投資家向け調査を行う企業で働いておりますが、社会的責任投資が発展していく上で重要なポイントとなるのが、企業の情報開示です。

社会的責任投資は財務情報に加えて非財務情報の分析も踏まえて投資の意思決定を行うため、企業活動に関する幅広い情報の開示が行われて初めて可能になります。この情報開示のグローバルスタンダード作りを試みている非営利組織が2つあります。International Integrated Reporting Council(IIRC)とGlobal Reporting Initiative(GRI)です。

両者が何を目指しているのかを再確認し、今後の企業の情報開示に何が求められるのかを考察したいと思います。


IIRCが目指しているもの

IIRCはIntegrated Report(統合レポート)のフレームワーク作成を目的とした組織です。これまでのCSR報告書は財務会計報告書とは全く別に作られ、2つの報告書の関連性はほとんどありませんでしたが、IIRCはこの2つの報告書を文字通り統合し、相互の関連性が明確となるようなレポートのフレームワーク(=International IR Framework)を作ろうとしています。IR Frameworkには統合レポートの目的が以下の通り書かれています:

"<IRaims to:
Catalyse a more cohesive and efficient approach to corporate reporting that communicates the full range of factors that materially affect the ability of an organization to create value over time, and draws together other reporting strands
Inform the allocation of financial capital that supports value creation over the short, medium and long term
Enhance accountability and stewardship with respect to the broad base of capitals (financial, manufactured, intellectual, human, social and relationship, and natural) and promote understanding of the interdependencies between them
Support integrated thinking, decision-making and actions that focus on the creation of value over the short, medium and long term."

ざっくりと訳すと、IRの目的として以下の4点が挙げられています:
  • 組織の価値創造能力に重要な影響を与える幅広い要素を伝える企業報告の、よりまとまりのあり効率的なアプローチを促進させる。
  • 短中長期の価値創造をサポートする金融資本の配分に関する情報を提供する。
  • 資本の広義の概念(金融資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会及び関係資本、自然資本)を尊重した説明責任と受託責任を強化し、それぞれの資本の相互の関連性への理解を促進する。
  • 短中長期における価値の創造に焦点を当てた統合的な思考・意思決定・行動をサポートする。
広義の資本の概念も面白いですが、より重要なポイントは価値創造に焦点を当てている点です。IIRCのIR frameworkは、様々な要素(主には上述の各資本)がどのように関連し合って価値の創造(=Value creation)に繋がっているかを示すためのフレームワークだと言えます。問題は何をもって価値とするかです。IIRCはIR Frameworkにおける「価値(Value)」を以下の通り説明しています:

"Value is created through an organization’s business model, which takes inputs from the capitals and transforms them through business activities and interactions to produce outputs and outcomes that, over the short, medium and long term, create or destroy value for the organization, its stakeholders, society and the environment."

価値を経済的な価値や金融的な意味での価値に限定せず、幅広くステークホルダー、社会、環境にとっての価値として捉えていることが分かります。また短中長期の全てにわたっての価値であることも強調されています。


GRIが目指しているもの

GRIはサスティナビリティ報告書作成のためのガイドラインであるSustainability Reporting Guidelinesを作成しており、今年その第4版(G4)が発表されました。G4の目的は以下のように書かれています:

"The aim of G4, the fourth such update, is simple: to help reporters prepare sustainability reports that matter, contain valuable information about the organization’s most critical sustainability-related issues, and make such sustainability reporting standard practice."

こちらもざっくりと訳せば、G4の目的は以下の三つということだと思います
  1. 報告者が意味のあるsustainability reportを作成することを助ける
  2. 組織のサスティナビリティに関連する論点の中で最も重要なものが情報としてreportに含まれるようにする
  3. Sustainability reportの作成が普通の習慣になるようにする
尚、GRIが主張するサスティナビリティは、ウェブサイト上で"economic, environmental and social sustainability"と説明されています。GRIの目指すガイドラインは、あくまでこのサスティナビリティに関する報告書を作成するためのガイドラインだと言えます。


IIRCとGRIは、基本的には大雑把にはいずれも企業の社会的責任に関するレポートのフレームワークないしはガイドラインを作成することを目指していると言えると思いますが、その目指す所を具体的に表現した言葉は異なっています。既に両者は報告書のスタンダード作りで連携していくことを確認し合っているため、今後は二つのスタンダードのすり合わせが進むものと思います。

次の記事で両者の違いと共通点を浮かび上がらせる「マテリアリティ」という概念について見ていきたいと思います。


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