2013/10/27

CSRを促進する社会の仕組み(2)

マスコミ業界によるBPOの設置は
業界全体でCSRを促進していく
取り組みと言える
放送倫理・番組向上機構(BPO)という組織がありますが、この組織も様々な業界に属する企業がCSRに取り組んでいくことを促進するヒントを提供しているように思います。

BPOのウェブサイト(http://www.bpo.gr.jp/)によると、BPOは以下のような組織です:

放送における言論・表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理の問題に対応する、非営利、非政府の機関です。主に、視聴者などから問題があると指摘された番組・放送を検証して、放送界全体、あるいは特定の局に意見や見解を伝え、放送界の自律と放送の質の向上を促します。

BPOはNHKと民放連によって設置された第三者機関です。

※いずれもhttp://www.bpo.gr.jp/?page_id=912より

この機関について注目したい点は、この機関が「民間組織」によって「恒常的に」設置されたものであるということ、そして前回の記事と重なりますが、民間組織がステークホルダーとの対話の場を設定しようとするものであり、また業界全体でlevel playing fieldを構築しうる取り組みであるということです。


「民間組織」によって「恒常的に」設置された機関としてのBPO

前回のブラインドの安全対策に関する東京都とのイニシアチブと、BPOの違いは二点あります。一つはBPOが民間組織が自主的に設置したものであるということ、もう一つはBPO
が一時的な取り組みではなく、恒常的な組織として設置されたものであるということです。

後にもう少し詳しく述べますが、放送業界はBPOによってステークホルダーたる視聴者の意見を事業活動に取り入れ、自らの事業活動を改善していくための窓口としてこの機関を活用しようとしています。このブログで何度も述べている通り、民間組織が自らステークホルダーの意見を聞く場を設置することこそCSRの前提とも言えることであり、その作業なくしてCSRは成り立ちません。BPOを恒常的な組織として、ステークホルダーの意見が常に放送業界に伝わる仕組みとしていることは、まさしく放送業界によるCSRであり、他の業界が模範とすべき事例と言えるのではないかと考えています。


ステークホルダーとの対話の場としてのBPO

上述の通り、BPOは放送業界がステークホルダーたる視聴者の意見をBPOに協力するマスコミ各社に届けていく役割を担っています。BPOの飽戸理事長は、ウェブサイトでBPOの活動について以下の通り述べています

BPOは、視聴者の意見や苦情を真摯に聞き、独立した第三者の立場から放送倫理上の問題に対して的確に判断することが、活動基本として明確に決められています。

マスコミ各社は、大雑把に言えば番組を作って収益をあげるわけですが、その番組作りのプロセスが「適切」なものでなければ、時に他者の基本的人権を侵害するなどの問題が発生することがあります。例えば大きな殺人事件の被害者家族に対する執拗な取材によって精神的苦痛を与えることや、不確定な情報をベースにしたデマの流布、事実をゆがめる過剰演出などが場合によっては「不適切」な番組作りとなりえます。これらの問題をステークホルダーの意見から抽出し、放送の内容や番組作りに取り入れていくことが、マスコミ各社がBPOを通して行おうとしていることだと考えられます。BPOの規約などを熟読していないため詳細をしっかりと把握している訳ではありませんが、この理解が正しければ、やはりBPOはマスコミ各社による最も重要なCSR活動の一つだと言うことができると思います。一点追加することがあるとすれば、ステークホルダーを視聴者に限定せず、放送業界の活動に関わる全てのステークホルダーを取り込みうるものとしていくことができれば理想ではないかと思います。


業界全体でlevel playing fieldを構築しうる取り組みとしてのBPO

最後に注目したいのは、やはりこの機関が放送業界のlevel playing fieldを作り得るという点です。level playing fieldについてもこのブログの中で何度か触れていますが、やはり競争条件を整え、同じ業界内で競争する全組織が等しくコストを負担する状況を作っていくことは、一つ一つの企業がCSRをしっかりと果たしていく上で非常に重要です。マスコミ各社がBPOの提言を尊重し、各社が等しくそれを事業活動の中に取り入れていくことが出来るならば、BPOは放送業界のCSR促進における強力な仕組みだということができると思います。例えば先の殺人事件被害者家族の例えで言えば、殺人事件被害者に対する取材は各社個別では行わず、必ず被害者家族の同意を得た上で公式の場を設置し、そこで各社同時に行うこととする、などの条件が整えられれば、スクープを狙った過剰な取材競争が抑えられるなどの効果があるかもしれません。(放送業界の実情については全くの無知のため、イメージだけで書いておりますが)


あとは放送業界のBPOによって提言されたことを事業活動に取り入れていく制度やガバナンスを各社が持っているかどうかという点ですが、この点は恐らくまだ課題として残っているのではないかと思います。そういうインセンティブがあるかどうかは議論しなければなりませんが、いずれにしてもここを深めていければ、放送業界のCSRはまた一歩他の業界をリードしていくことになるのではないかと思います。

他の業界の業界団体もBPOのような機関を設置して、ステークホルダーの意見を各社で共有し、業界全体で事業活動を改善していく仕組みを持つことができれば、CSRが各業界で促進されていくことに繋がるのではないかと考える次第です。

2013/10/22

CSRを促進する社会の仕組み(1)

ネット上をうろうろしていたところ、興味深い記事がありました。

「ブラインド」で死亡事故 安全対策提言へ
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131022/t10015466781000.html

この記事で示されている東京都のイニシアチブは、CSRを促進する社会の基本的なモデルといえるのではないかと思います。記事を読む限り、今回の対応の以下の点に着目することが非常に重要ではないかと思います。

社会としてCSRを促進する
仕組みを作る

メーカーや消費者団体などが意見を交わしている点
企業側が一方的な考えを述べるのでもなく、消費者側が一方的に企業を非難するのでもない、企業とステークホルダーが対話の場を設け、何が問題でどのような対策をとれるのか協議を行っている点が非常に重要だと思います。


医師や警察と連携して情報を共有する仕組みを作ろうとしている点
企業だけがCSRに取り組むのではその成果に限界があり、様々なステークホルダーや関係者が協働していく必要があります。今回のケースで医師や警察と情報共有を行っていくことは、現状の客観的で正確な把握や、より効果的な解決策の構築につながると思います。


全国統一の基準づくりも含めて検討している点
以前租税回避を巡る議論について書いた記事で述べたとおり、Level playing field(=公平な競争条件)の構築がCSRを促進する上で非常に重要になります。全国統一の基準作りを含めて検討しているとういことは、全国のメーカーがその基準に準拠したものづくりをするようにするということであり、正にLevel playing field構築を目指していることに他なりません。その後は輸入製品に対する規制なども検討されていくことになるのではないかと思います。


この3点をそれぞれ一般化すれば、ステークホルダーとの対話の場の設定関係プレイヤーを巻き込んだ社会全体での取り組みLevel playing fieldの構築の3点だと言えます。この3点が積極的に実行されるような仕組みづくりが、CSRを促進する社会を作っていく上で不可欠ではないかと考える次第です。