2013/03/04

政府の限界と企業への期待


CSRに関するJの質問から現在の社会が抱える傾向が2つ浮かび上がってきました。一つは前回の投稿で述べた「関心の二極化」、もう一つが今回の「政府の限界」です。
2012年6月20~22日にかけて、ブラジルのリオデジャネイロにて「国連持続可能な開発会議 RIO+20」が開催されました。政府、企業、教育機関、NGOなど、あらゆる組織の代表者が一堂に会し、これからの持続可能な開発のあり方について、様々なテーマから話し合われたこの会議は、最終的に成果文書として「我々の求める未来 (The Future We Want)」が採択されて終了しました。 (http://www.un.org/en/sustainablefuture/)

以前から指摘されていて、RIO+20で改めて明らかになったことが2つあったと思います。一つは、主権国家同士、特に先進国と途上国の政府間の溝が深く、政府間のグローバルな協調政策をとることが非常に難しくなっているということです。過去にも、京都議定書はアメリカが批准せず、またポスト京都議定書の枠組み作りのために2011年11月に開催されたCOP17も、あわや交渉決裂という状況になりました。そしてもう一つは民間レベルで各種のコミットメントや合意が行われ、途上国の開発や持続可能な発展において民間企業の存在感が益々高まっているということです。国連グローバルコンパクトが呼びかけを行い、多くの企業がRIO+20においてvoluntary commitmentとして、持続的な成長に向けた自主的な目標設定を行いました。


グローバル協調の難しさについて、三井物産戦略研究所会長である寺島実郎氏が無極化という表現で状況を説明していました。
世界は「冷戦後」といわれた時代の終焉という意味で構造転換期に直面している。東側に勝利した西側のチャンピオンとしての米国が世界を主導するという時代という認識に基づき、「米国の一極支配、ドルの一極支配、唯一の超大国としての米国」とさえいわれたが、世界は急速に「多極化」というよりも「無極化」(全員参加型秩序)へと移行しつつある。」(http://mitsui.mgssi.com/terashima/wc0812.php)
これは2008年に書かれたものですが、今は当時よりも更に無極化していると言えると思います。米国・欧州共に経済の低迷に喘ぎ、国内や域内の問題解決に追われて外交上の影響力を発揮しきれていないなか、中国を中心する新興国の国際交渉での発言力は増していると言えるでしょう。そのような状況の中で、交渉に参加する全ての国が同意できるような国際合意をまとめるのは簡単なことではありません。

また民間企業の存在感についても、ダボス会議を主催するWorld Economic Forumの創設者でありCEOであるKraus Schwab氏が、Foreign Affairsに寄稿した2008年の論文「Global Corporate Citizenship」において、グローバル社会の進行に伴う主権国家の役割の縮小に触れながら、企業の影響力について以下のように述べています。
As state power has shrunk, the sphere of influence of business has widened. Companies get involved in the health of workers, the education of employees and their children, and the pensions that sustain them in retirement. Corporations have an impact on everything from air quality to the availability of life-saving drugs. (中略) the influence of corporations on communities, on the lives of citizens, and on the environment has sharply increased.」(http://www.foreignaffairs.com/articles/63051/klaus-schwab/global-corporate-citizenship)

冷戦が終結し、資本主義が勝利した後、各国が自由主義的な経済政策を進めました。それに伴う国際的な経済の結びつきが主導したと言えるグローバリズムの台頭は、国境の持つ実質的な意味を低下させ、一つの国の政府がすべてをコントロールできる時代を終焉させたと言えるでしょう。その結果、各主権国家は自国の抱える様々な問題を解決する上で、常に他国と何らかの形で関わらざるを得ない状態となりました。そしてそのグローバル化をコントロールする秩序形成の為に機能してきたのがG7やG8などの先進国を中心とした国際協調の枠組みでしたが、欧米の後退、新興国の台頭などから無極化が進み、各国政府が効果的な協調政策をとることが難しくなってきています。そういう状況の中、企業の存在感が益々高まっているというのが、現状の整理ではないかと思います。

1992年、2002年、
2012年のFortune 500の各企業の売上を比較すると、企業が大きく力をつけていることが良く分かります。Fortune 500に名を連ねる企業の売上TOP5の合計金額は、441,615百万ドルだった1992年から、2012年には1,533,045百万ドルまで、約3.5倍になりました。
http://money.cnn.com/magazines/fortune/fortune500/2012/full_list/より作成
TOP100の合計金額で見ると拡大はさらに大きく、1992年の1,620十億ドルから2012年には7,496十億ドルとなり、10年で約4.6倍になっています。
http://money.cnn.com/magazines/fortune/fortune500/2012/full_list/より作成
また2012年のFortune 500で最も売上金額の大きかったExxon Mobileの売上は452,926百万ドルであり、これが国家だとすればGDPで世界第27位とされるパキスタンのGDP464,900百万ドル※に匹敵する状態にあります。※IMF(2011年)

政府がグローバル社会においてその機能を十分に発揮できない状況なりつつあり、企業がこれだけ力を持ちつつある中、企業への批判や期待が高まるのは自然な流れであり、今後は社会として企業の力を有効に活用し、また企業をうまくコントロールする仕組みが必要です。そしてどのような社会の仕組みを作るべきかということに関するヒントが、CSRに隠されているのではないかと私は考えています。

CSRを実践することで、企業は政府が役割を発揮しきれない領域で社会的厚生を高めることが出来ます。それを企業が自発的に実行してくれればそれ以上のことはありませんが、そうなるためには当然企業にインセンティブがある必要があります。政府、企業、市民社会の各プレイヤーはどうすればそのインセンティブを与えられるかを考えていくことが必要になります。企業が積極的にCSRに取り組むインセンティブを与える社会の仕組みや考え方について、すでに様々な試みが世界で行われていますので、今後それらの事例を見ながら考察を深めていきたいと思います。

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