CSRに関する情報は非常に多く、様々な人が問題意識を持って議論を展開しています。CSRの周辺的概念とも言えるSustainabilityやShared Value、BOPビジネス、ソーシャルビジネスなどの概念を含めれば、実に多くの人が問題意識を持っていると実感します。自分自身もその議論の中の一つとして、持っている知識や経験をベースに考えていることを発信していきたいと思っていますが、そもそもCSRは良いのか、CSRは重要なのか、という根本的な問いを常に意識したいと思いますし、CSRについて考える上でも特に全体知と現実を見失わないようにすることを心掛けたいと思います。
全体知を持つ

全体知を持って思索を深めて行くことは非常に大事だと思っています。私が全体知を持つという表現で言いたいことは、CSRが社会の中でどのような役割を担えるかという視点を持つということです。CSRは手段であって目的ではないので、CSRを行うべきだと一生懸命語るのではなく、社会全体がどういう方向に向かうべきか、その中でCSRが必要か、必要だとすればどのような形でCSRが実行されるべきで、その為に企業や社会が何をしていくべきか、そういう全体から落としこんでいく意識、全体との整合性の中で考える意識を常に持って議論することが大切だろうと思っています。CSRについて考え始めると、ついつい何が何でもCSR、CSRの理想はこれ、という考え方になりがちですが、政府であれば社会全体の方向性の中で、企業であれば企業戦略の中で、CSRにどの様な役割を求めるかという視点を持って考えるということが重要だと考えています。
現実を見つめる

自分自身は「
CSRおたく」にならないことを意識しています。これは役割分担の問題であり、他のあらゆる領域と同じように、専門性を深めて議論を整理していき、理想はどこにあるかということを提示するCSRのプロは必要です。それと共に、最終的にはCSRに関心のない人達がそれらを理解し、実行して行くように促していくことが大切であり、結局は理想を考えながら実行可能な形を模索し、実践的なCSRの在り方を考えて進めていくことが不可欠です。その上では現実の制約が何かということを常に冷静に見つめて対応することが求められます。例えば、
EUの提示しているCSRの定義をベースとした私の現時点での認識では、企業にとってCSRに真剣に取り組むことは基本的にはコストです。多くの専門家や組織がCSRが企業の競争力に繋がることを示そうと試みており、中にはCSRへの取り組みと長期的な財務リターンとの相関関係を示した論文などもあります。しかし、もちろんそういう相関関係があれば良いなと私も思っていますが、高い説得力を持っているとはまだ思えないというのが私自身の現時点での感想です。関心のある私自身ですらそのように感じているのですから、CSRにそもそも関心を持っていない人がCSRが利益に結びつくと言われてもピンとこないのは当然だろうと思います。そういった現実(CSRが本当に企業の競争力向上につながるかは必ずしも明瞭ではない、多くの人はCSRに懐疑的orそもそも関心がない、そういう人達を説得しなければならない等)を認識せず、思考停止的にCSRの重要性や理想の姿を唱えることは、むしろCSRを後退させて行くことになると思うのです。現実を理解しながら粘り強く対応する意識を持って取り組んでいくことが求められていると思います。
今後も上記の二点を踏まえながら自分自身の考えを深めて行きたいと思いますが、やはりCSRに取り組むことで、企業は社会をより持続可能なものとしていく一定の役割を担うことが出来ると私は思っています。また企業にとっても、CSRへの取り組みが消費者の不買運動のリスク回避につながったり、ブランド力向上に寄与するなどの便益があるという見方もあります。これらの効果を定量化して正確に把握することは難しいですし、これらの便益が企業にとってもより実感し易い形でもたらされるようにすることが必要だと思いますが、例えばマーケティング戦略等のように、効果を定量的に把握しにくくとも何らかのKPIを設定するなどして戦略を実行し、企業価値を高めて行こうとする取り組みは企業において日常的に行われており、CSRもそれらと同様に取り組んでいくことが出来るのではないかと思っています。自社の競争力に繋がるかどうかが曖昧な中でも、CSRと事業戦略の中に統合する方法を模索し、CSRを将来に向けた投資として捉えて中長期的な競争力を高めることに繋げようとしてきたのがいくつかの先進的な企業の取り組みであり、そういった企業は自社戦略におけるCSRの位置づけを考えるという全体知を見失わず、またCSRを実行して行く上での制約が存在するという現実を直視してCSRに取り組んでいる好例でしょう。今後はそれらの取り組みが、中小企業を含むより多くの企業に広がっていくことが理想だと考える次第です。
また地域としてそれらの取り組みを促進し、その力を社会の発展に活用しようとしているのが欧州連合だろうと思います。EU域内の個別の国の政策や企業の対応状況は別に見ていく必要がありますが、現状の大きく動揺している経済状況にも関わらず、EU自体では域内のCSRを更に押し進めて行くための提案が欧州委員会に提出されるなど、議論がなされています。これらの取り組みや動きについては、また触れていきたいと思います。
仕事においてCSRのプロとして働いているわけではない私はCSRのアマチュアですが、アマチュアだからこそ、全体知を持ち、客観的に現実を見つめることが出来ると思っています。引き続きこれらを意識しながら、特に日本企業と日本が今後の社会の更なる発展を目指す上でCSRを活用していく方法がないか、地に足をつけて考察を深めていきたいと思います。