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銀行が社会に与える影響は大きく、 彼らが社会的責任を果たしていくこと には非常に大きな意味がある |
「銀行に元の仕事(original tasks)に戻ってもらう必要がある」
Barnier氏が指摘した銀行のoriginal tasksとは、上述の通りreal economyへの投融資、即ち産業を育てていくような投融資を意味しているのですが、その発言を聞いた時、銀行が担うべき役割と社会的責任とは何かを改めて整理する必要があると感じました。特にBarnier氏の発言において考えられていた銀行(商業銀行・投資銀行)の企業への融資・投資業務をイメージして考えたいと思うのですが、銀行の企業の社会的責任=社会(=ステークホルダーの集合体)からの期待に応えていくことであるという所から出発した時、そこには以下の3つの責任があるのではないかと思います。
- 稼ぐ
- 事業を育てる・支援する
- 社会的責任を果たしている企業を応援する
稼ぐ
銀行は稼ぐことを期待されています。預金者や債権者は元本の返済と金利を求めていますし、投資家はキャピタルゲイン、インカムゲインを求めています。稼ぐことが期待されているのは当然銀行に限ったことではなく、民間企業一般に言えることであり、社会からの期待に応えるというCSRの本質を考えた時に、しっかりと利益を出していくことは企業の重要な責任の一つだと言えます。問題は他の2つの責任が無視され、この「稼ぐ」という責任だけが追及された場合に発生するのではないかと思います。特にリーマンショックに至るまでの金融機関の一連の行動は、主に株主利益の最大化の論理と過剰なリスクテイクを促進する報酬体系の組み合わせによって、銀行をこの「稼ぐ」という行為に(歪んだ形で)固執させたと考えられます。この状況は結果としてリーマンショックとその後に続く世界全体の不況を招き、欧州金融システムの混乱のきっかけになりました。これをきっかけに金融機関への信頼が大きく揺らぎ、金融機関のあり方に関する議論が高まってきたと言えます。(尚、この件についてはその状況を野放しにした若しくは促進してしまった政府の責任についても指摘すべきことや見直すべき点はあり、それが銀行規制のあり方やロビー活動の見直し、国際的な金融監督体制の構築などの議論に繋がっています。)
事業を育てる・支援する
必要なところにお金を流していくのが銀行の社会的な役割であり、その高い専門性を用いて適切な企業に適切な形で資金を提供すること、それによって効率的・効果的に企業を育て、支援することは、銀行が社会に期待されている重要な役割です。ベンチャーキャピタルの活動が活発化していくことは日本に新たな産業が形成されていくことを促進すると思いますし、PEの活動や投資銀行のM&A支援なども資本のより効率的な利用や事業再生につながるだろうと思います。また商業銀行も、特に日本においてはメインバンクシステムの中で、事業を育て、支援する上で非常に重要な役割を担ってきたと言えます。この役割がBarnier氏の指摘した金融のoriginal tasksであり、稼ぐという責任も考えると、この事業を育てる・支援するという役割をまっとうした結果としての稼ぎこそが銀行の追求すべき稼ぎではないかと思います。
社会的責任を果たしている企業を支援する
事業のプロセスと結果の両方において、社会への外部不経済を最小限に抑える努力をし、その上でプラスの影響を与えることを追求している企業に融資・投資を行うことを銀行の社会的責任の一つとして捉える考えです。これは主に社会的責任投資(SRI)が目指す所ですが、融資においても金融機関が自主的に赤道原則(Equator Principles)を設定するなど、SRIと似たような考え方が拡大しています。今回のGRI国際会議でも"Integrating ESG into investors' decision making"と題されたパネルディスカッションが設定され、ゴールドマンサックスのアナリストがパネルとして参加しており、これは社会から新たな期待として銀行が今後認識していく必要のある役割だと改めて感じた次第です。社会的責任投資の基本的な情報については前回の投稿で触れましたが、銀行がこの役割を積極的に発揮していくことで企業がより責任あるものに事業活動を改善していくインセンティブを働かせることが期待出来ます。そしてこの三つ目の責任こそが、銀行がCSRとしてより積極的に取り組むべき活動ではないかと私は考えています。
上記3つのうちのどれか一つだけを目的化するのではなく、しっかりと社会的責任を果たすためにこれらを同時に達成していくことが重要だと考えます。そしてそれを可能にする社会システムを作っていくことは持続可能な発展を促進していく大きな力となるはずです。今後も適宜この件については考察を深めていきたいと思います。
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