2013/04/01

CSR競争時代とCSRの終着点

今英国はイースターの連休中です。時間が少しあったので、過去のメールを整理していたところ、社会人2年目の頃、会社でCSRについて考えていることを社内イントラ用にレポートするという役目がまわってきた際の下書きが出てきました。私がCSRについて強い問題意識があるからまわってきたということではなく、暇そうな若手に書かせようということだったのだと思います。A4で2ページ程度で、自分が日々の業務においてどのようにCSRを意識しているかを書くようなレポートだったのですが、せっかく書くのなら新しい視点をと思い、最後に以下のような結論を加えました。

社会は CSR を伴わない企業活動を認めなくなってきており、今後更なる企業努力が求められることは必至だろう。 CSR 競争時代とも言うべき時代の到来を感じる。この時代においては、(中略)既に確立されている CSR の次元を超えて、新しい CSR の基準を作り出していくことで社会をより良いものにしていくことこそ企業が社会に対して負うべき本当の責任であり、その責任を意識した事業活動を続けることこそが企業自身の持続可能な発展につながると考える次第である。

当時は特に根拠もなく、思ったことや少し考えたことを素直に書いていただけなのですが、CSRについての理解が当時よりはもう少し深まった今、上記の結論部分について、もう一度考えてみたいと思います。


CSR競争時代

互いを高め合うCSR競争と
そのためのインセンティブが必要
社員一人一人への浸透については課題が残りますが、多くの大企業が役員をCSRのトップとして任命し、経営と直結させた形でCSRに取り組もうとしています。また多くのCSR担当者が国内外の同業他社がどの様な取り組みを行っているかを見て、自社が他社に対して遅れをとっていないかを日々チェックしています。「CSR競争時代」という表現はやや大袈裟かもしれませんが、社会からの企業への要請はとどまることはなく、今後も企業はCSRの新しい取り組みをまさしく競うように進めているのではないかと思っています。もちろん、この競争が盲目的に行われるのでなく、前回の投稿に書いたような全体知や現実を見失うことなく、効果的且つ持続可能な形で実行されて行くことが重要なのは言うまでもありません。「社会的責任投資の調査会社の格付けが下がった」、「同業の他社は当社よりも良い格付けがついている」、「以前まで組み込まれていたSustainability indexから当社が外された」、「他社はこんなことをしている、当社もやるべきだ」など、目に見える評価や数値などは目立ちやすく気になりますが、実際のところ、多くの企業にとってこれらの調査機関の調査結果などが自社の事業に致命的なインパクトを与えるほどの影響力を持っているとは現状では考えづらいです。またこれらの調査結果の評価を上げたり、他社と同様の活動を行うことが目的化することも問題です。企業は競合他社の活動や調査機関の評価を参考としつつも、結局は自社が本当に取り組まなければならないことは何かということを考えて行動することが必要ですし、社会は企業のCSR競争がより良い効果をもたらしていくようなインセンティブを与える仕組みを持つことが必要でしょう。それらの結果、互いを高め合いながらポジティブな影響を社会に与えていく、健全なCSR競争の環境が整えばと思う次第です。


CSRの終着点

自ら範を垂れ、他社や関係者を巻き込んで
新しい基準を作る「CSRの終着点」
当時私が担当していた仕事では、オペレーション上の温暖化ガスの排出量を社内で報告していました。特に問題となる排出量ではありませんでしたが、報告することが求められていたこともあり、何か排出量を減らす良い方法はないものか、実践的なアイディアが出てくれば是非実行していこうと意気込んで色々と考えるようになりました。しかし、考えた結果出てきたのはインフラが整備されていないために実現不可能な方法や、競合他社が負っていないコストを自社だけが負うことになる方法ばかりであり、その時に初めて「自社だけがCSRに取り組むのでは成果に限界がある」ということを感じるようになりました。そのような状況の中でどうすれば最大限の成果を残すCSRを実践することが出来るのか、その疑問に対し私が出した結論が「既に確立されている CSR の次元を超えて、新しい CSR の基準を作り出していくこと」でした。CSRには企業にしか分からないことがたくさんあります。サプライチェーンの何処にどの様なリスクがあり、どう対応すれば社会に与えるマイナスの影響を減らすことが出来るのか、具体的なことは当事者である企業が一番良く分かります。企業が自ら問題点を認識し、可能ならば自ら対応して範を垂れてその対応をスタンダードとして社会に認知させてしまうこと、単体で対応出来ないのならば業界全体で取り組むことを呼びかけること、更には政府にも働きかけて新たな基準や規制を作るために協力することは、企業のCSR活動の次元を一つ押し上げる可能性を持っています。自社が出来る範囲で一つ上のレベルのCSRに取り組んで模範となることで新たなスタンダード作りの先陣を切り、またそれで終わるのではなく他社や関係者を巻き込んで新しいルール作りに積極的に取り組むことでより大きな成果を生む可能性を広げていくこと、これがCSRの終着点ではないかと思います。


しかしここでもやはり問題になるのが、そのような活動を企業が積極的に行っていくインセンティブはあるのかという点です。今世界各地で行われているCSR促進に向けた取り組みは、まさしくこのインセンティブをどう与えるのか、またはどこにインセンティブを見出すのかということを真剣に考え、試行錯誤を繰り返しているプロセスであると言えます。これらの点について、今後の投稿で少しずつ議論を展開していきたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿