2013/04/06

政府はCSRを促進する役割を発揮できるか?(1)

少し前の話ですが、2月にtomorrow's companyというシンクタンクが主催した、”Sustainable Capitalism and the transition to a low-carbon economy”と題されたパネルディスカッションのイベントに参加してきました。パネルディスカッション後、ある社会的責任投資の調査会社のリサーチャーが質問をしていました。

「CSRを積極的に実行している企業が中長期的にみて優良な投資対象となると考えられてきた背景の一つとして、今後政府が温暖化ガスの排出や水資源の利用に関連する規制を設定するようになるという観測があった。しかし、私は15年間それらの企業のリサーチを行ってきたが、企業の活動に決定的な影響を与えるような規制は作られて来なかった。それでも引き続き政府の規制や行動を意識して、持続可能な社会発展に沿った企業活動に投資をしていくべきなのだろうか?」

これに対し、パネルの一人、Aviva InvestorのChief Responsible Investment OfficerであるSteve Waygood氏が以下のような回答をしていました。

「Stern Reviewを引用すると、Climate Changeは市場の失敗の最たるものだ。市場の失敗は政府がこれを是正することが必要だが、政府がそれらの規制を作っていくことは今後も難しいだろう。グローバル化が進む中で現在のガバナンスのシステムはそれに適切に対応できるものになっていない。また産業界や金融界は積極的なロビー活動を展開していることもあって、政府が彼らにとって不利な規制を積極的に作っていくことは簡単ではない。ロビー活動の透明性を高めて行くことが重要だ。」

政府は役割を発揮できるか
Waygood氏が述べる通り、政府が発揮できる役割は著しく制限されているのが実態だろうと思います。以前も書きましたが、様々な場面で各国政府の国際的な協調政策が必要とされていますが、環境問題等を中心として中々妥結点を見出すことができていません。また企業の積極的なロビー活動は様々な所でそのあり方が問われており、昨年の10月にベルリンで実施されたCSR Conferenceでも、パネルの議題の一つとして取り上げられていました。映画「インサイド・ジョブ」でも、金融機関が過剰なリスクを取り、リーマンショックが引き金となって世界が不況に陥るまでの流れの中で、金融機関がロビー活動を通じて政府に影響を及ぼしていた様子について触れられていました。企業によるロビー活動は日本では大きく取り上げられることは好くないですが、欧米では極めて積極的に行われているようです。

Waygood氏はUN PRIを策定した専門家チームの一員であり、また国連が主導するSustainable Stock Exchange Initiativeの立ち上げにも関わっていました。質問に対する彼の回答と、彼の経歴を結びつけてみて感じることは、彼は恐らく政府からインセンティブを与えていくことに限界を感じており、企業がCSRに取り組むインセンティブを社会的責任投資や証券取引所が上場企業に対して課する条件を通じて与えようとしているのではないか、ということです。

Waygood氏の真意は分かりませんが、彼の発言もしっかりと踏まえつつ、引き続き企業がCSRに取り組むインセンティブについて考えていきたいと思います。

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