
CSRが注目されていることの背景に企業がその影響力を強めているということと、(グローバル化やロビー活動などによって)政府が効果的な政策を打てなくなってきている状況があるということを見てきましたが、その状況でも積極的にCSRを促す役割を担おうとしているのが欧州政府です。EUでは欧州委員会が新CSR戦略というものを打ち出し、彼らが既に設定しているEU2020という成長戦略における政策目標達成の為の重要なツールとしてCSRを促進していこうとしています。(EU2020: http://ec.europa.eu/europe2020/index_en.htm)
先日、PRI(Principles for Responsible Investment)とICGN(International Corporate Governance Network)が主催したパネルディスカッション"ESG in perspective: Realities of integration and priorities for reform"に参加してきました。そのパネルディスカッションの内容も面白かったのでまた改めて考察したいのですが、パネルディスカッションの前にEuropean Commission(欧州委員会)のロンドン代表部担当者が、EUのCSR政策が何を目指しているかについて、簡単なスピーチをしていました。彼が特にポイントとしていたのはEUによるCSRの定義です。
CSRの定義の投稿にて述べた通り、現在のEUによるCSRの定義は"The responsibility of enterprises for their impacts on society"です。これは2011年10月に策定された欧州の新CSR戦略である"A renewed EU strategy 2011-14 for Corporate Social Responsibility"にて設定された定義です。実はEUはそれまで別のCSRの定義を設定していました。それがこちらです:
“a concept whereby companies integrate social and environmental concerns in their business operations and in their interaction with their stakeholders on a voluntary basis”(企業が社会及び環境への配慮を事業運営とステークホルダーとの対話に自主的に統合するという概念)
これは2001年にEU委員会が発表した"Promoting a European framework for Corporate Social Responsibility"というグリーンペーパーの中で言及されたものです。このグリーンペーパーの目的はCSRをEUの政策目標達成の為に活用する可能性についての議論を喚起し、CSR促進のための新たな枠組み作りのイニシアチブを立ち上げることにありました。このグリーンペーパーを皮切りに、EU委員会はCSR促進の為に積極的な役割を演じてきました。
CSRの定義の変更は、EUとして今後更にCSR促進に立ち入って行くことを暗に示していると言えます。ポイントはこれまでの定義にあった"on a voluntary basis"という文言が取り除かれた点です。新たな定義を設定した新CSR戦略においても、EU委員会は依然として"The development of CSR should be led by enterprises themselves"としていますが、同時に政府は政策や規制によってそれを支援すべき("Public authorities should play a supporting role")だとしています。つまり、以前までのようにCSRは企業の自主的な取り組みによって行われるものだ、という考え方ではなく、政府がそれを支援しうるものだという考え方にシフトしたということです。
このEUの新CSR戦略を読むと、支援という言葉を使ってはいますが、実際には相当積極的に政府がイニシアチブをとってCSRを促していく方向にあるように感じます。今後も議論が続くでしょう。ちなみに、日本でも経済産業省が政策としてCSRを促進していくべく議論を始めています。(経済産業省: http://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/index.html)
経産省のウェブサイトを読む限りですが、EUを手本と捉えた場合に考えられる現在の日本のCSR政策の課題として以下があるように思います:
- 明確な政策目標の設定 → CSRの位置づけを定めるべく、EU2020のように、まずどこに向かうのかを明確にする必要があります
- CSRの定義の明確化 → BOPビジネス、ソーシャルビジネスなどの概念とCSRを混同すると政策を見誤る可能性があります
まだまだ不勉強ですが、世界各国・各地域の政府がCSR促進にどの様な役割を演じていくのか、引き続き注視して行きたいと思います。