2013/06/08

租税回避を巡る議論から見えてくること(1)

企業の租税回避を問題視する声が
これまで以上に大きくなっている
最近、グーグル、アップル、スターバックス、アマゾンなど、名だたる多国籍企業が各国で法人税を十分に支払っていないとの指摘を受けています。アップルはCEOが米国議会で、スターバックスは役員が英国議会で、それぞれ厳しい追及を受けました。彼らは法律を守っており、法律の範囲で所謂租税回避を行っています。また最近になって突然始めたのではなく、恐らく以前から行っていたのだと思います。企業側からすれば法律違反はしていないし、何を今更、といった感じでしょう。また「株主価値を最大化することこそ企業の使命」と考える立場からすれば、むしろ租税回避は積極的に行われるべきではないか、という結論もあり得ます。この租税回避の問題をどのように整理すれば良いのか、様々な議論があると思います。

一連の租税回避に関する議論から、CSRに関する論点が3つ見えてくるのではないかと考えています。1つは企業の存在意義、2つ目はステークホルダーの要求の変化、そして3つ目はlevel playing fieldという概念です。


企業の存在意義

上述の通り、利潤を最大化し、株主価値を最大化していくことが企業の目的だと考える場合、租税回避は一つの認められるべき選択肢となります。これを選択肢として捉えて良いかどうかを考える上では、そもそも企業は株主の為に存在するのか、ひいては企業は何の為に存在するのか、という点について改めて考えることが必要です。これは大きな質問ですが、CSRとは何なのかという問いは、この質問に答えない限り正確に答えることができません。東京大学教授の岩井克人氏が著書「会社はだれのものか」において、一般に「企業」と言われるものは正確には「法人化された企業」であるという点に触れながら、この問いに対する答えを出しています。

法人とは、社会にとって価値を持つから、社会によってヒトとして認められている(中略)そうすると、少なくとも原理的には、法人企業としての会社の存在意義を、利益の最大化に限定する必要などない

「(社会にとっての価値とは)まさに社会が決めていく価値であるのです。

本当はもっと細かく会社(=モノとしての企業の法人化)の構造やそれを取り巻く社会システムについて大変示唆に富んだことがたくさん書かれているのですが、本書の結論だけ述べれば、株主が会社の全てをコントロール出来るとする考え方は法理論上は誤りであり、会社にどのような役割を与えるかは社会が考えて決めることである、ということだと思います。

会社の存在意義を考える上では、会社とは法人であり、法人は社会の承認によってその存在を認められているという法人制度の原点に立つ必要があります。法人制度の原点に立ち戻って企業の存在意義を再考すると、企業は株主の為にあると考えるのも社会としての結論であり、企業は社会的責任を果たすべきだというのもまた社会としての結論だということになります。つまり社会が企業のあり方について決めていくということです。その中で、特に先進諸国においては、企業は利潤を追求するだけでなく社会的責任も果たしていくべきだと考える声が、特にリーマンショック以降徐々に大きくなっているというのが現状なのではないかと思います。

企業は利潤を追求するためにあるという考え方を所与の前提で不変と捉えるのではなく、社会としてどの様な役割を与えていくのかを常に考え直していくことが必要です。ここでもやはり、前回の投稿で述べた民主主義の発展が重要になり、国民として政府を通して、もしくはステークホルダーとして直接、企業に対して働きかけを行っていく意識と行動が求められると思う次第です。

ライセンスなしで運転してはいけない
先日参加したGRIの国際会議でたびたび聞かれた言葉が"License to operate"でした。CSR活動は企業にとってlicense to operateを得る為に必要だ、つまりCSRを果たさない企業は事業活動を行う資格がない、という文脈で使われていました。以前は法令遵守が企業活動の前提だと言われていましたが、今は適切なCSR活動を行っていなければ社会が企業が活動することを認めなくなりつつあるということだと思います。租税回避を行う企業に対する英国でのデモや、幹部が議会で追求を受けている様子から、今の社会は租税回避を行う企業には、たとえそれが合法的な手段によって行われていたとしてもlicense to operateを与えないという力が働きつつあるように思います。これは今の国際社会が多国籍企業に対して求めていることであり、企業が認識していかなければならないものなのではないかと考える次第です。


租税回避を巡る議論から見えてくる残り2つのこと、ステークホルダーの要求の変化とlevel playing fieldという考え方について、次回の記事で書きたいと思います。



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