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1つのコインの表と裏 |
この二つのマテリアリティ(会計上のそれと、IR/GRIのそれ)は必ずしも全く異なるものではなく、むしろ実は同じコインの表と裏に当たるものもあると思います。つまり、IRとGRIのマテリアリティにあたるものを改善していかなかった結果、財務パフォーマンスも悪化させることにつながるケースや、財務パフォーマンスを考慮して取り組んだ結果、他のステークホルダーの利益にもつながるケースが多いのではないかということです。
会計上のマテリアリティとIR/GRIのマテリアリティの関係には、図の単純なマトリックスで提示される4つのパターンが考えられます。
1. 会計上のマテリアリティであり、IR/GRIのマテリアリティでもあるもの
この領域は、これまで会計の観点からしか説明されて来なかったものであり、今後はサステナビリティの観点からもその重要性が説明されていく必要がある領域です。
2. 会計上のマテリアリティではないが、IR/GRIのマテリアリティであるもの
この領域は、これまで全く報告されて来なかったものです。投資家にとって重要な情報ではない可能性がありますが、ステークホルダーや前回投稿にも記載した広義のvalue creationに何らかの影響を与えうるものがこの領域に当たります。
3. 会計上のマテリアリティだが、IR/GRIのマテリアリティではないもの
この領域はこれまでの会計報告にて既に記載されてきたものであり、特に新しい対応は必要になりません。
4. 会計上のマテリアリティではなく、IR/GRIのマテリアリティでもないもの
この領域は重要性に欠けるため、報告する必要がありません。

やはり課題となるのは上記の1と2、特に会計上は認識されなくともIR/GRIにおいては認識される必要のある2の領域のマテリアリティです。この領域は基本的には投資家が関心を示さない領域であり、投資家以外のステークホルダーのための報告と言われても企業側としては不明瞭であり、企業活動の状況を精査して、精緻な情報を開示していくインセンティブが働きにくいと考えられます。ではどうすれば2の領域について企業が情報開示を積極的に行う状況を作れるでしょうか。
企業側が行うべきことは、2の領域について、本当は1の領域にカテゴライズされるべきものが含まれていないかを吟味すること。上述の通り、会計上のマテリアリティとIR/GRIのマテリアリティは同じコインの裏表であることも多く、会計上のマテリアリティかどうか一目には分かりにくくとも、例えば長期的に捉えた場合にそうなっている可能性があります。
そして社会の側が行うべきことは、読み手がいるということを明確にしていくこと。情報開示の内容について評価を行ったり、ステークホルダーの代表者としてのNGOなどが積極的に企業の報告書の内容を確認していくことで、2の領域についてもしっかりと情報開示を行う必要があるということを企業に示すことです。そういった形でステークホルダーが意思表示をしていくこと自体も企業側のインセンティブとなりますが、それと同時にそれらの意思表示がレピュテーションリスクなどと結びつき、結果的に2の領域を1の領域に押し上げていく可能性もあります。
こういった報告書のあり方を見ても、CSRは企業だけの努力ではなく、企業と社会の双方がある意味で恊働していくことで促進されていくものであることが感じられます。この点を考慮せずに企業の自助努力だけにCSRを任せていくのでは、真に持続可能な発展に資する企業活動にはなかなか到達しないのではないかと思う次第です。
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